「同じ月齢の子と比べて、言葉が出るのが遅い気がする」
「2歳になったのに、まだ単語しか出てこない」
「会話のキャッチボールが続かない」
「言いたいことがあるのに、うまく言葉にできず癇癪を起こしてしまう」
言葉の発達に関する悩みは、保護者にとって特に不安になりやすいテーマです。
周りの子と比べてしまい、「うちの子だけ遅れているのでは」と
焦りを感じる方も多いのではないでしょうか。
私は児童・障がい福祉の現場で11年間働き、現役の児童発達支援管理責任者として
言葉の発達に悩む多くのご家庭と関わってきました。
現場では言語聴覚士(ST)と日常的に連携しながら支援計画を立てており
この記事では、そうした専門的な視点も交えながら
家庭でできる具体的な関わり方を、できるだけわかりやすくお伝えします。
言葉の発達には、もともと個人差が大きい
まず知っておいてほしいのは、言葉の発達には、もともと大きな個人差があるということです。
同じ月齢でも、活発に話す子もいれば、言葉が出るまでにじっくり時間をかける子もいます。
「〇歳までに、〇語話せないといけない」という基準は、あくまで目安であり、絶対的なものではありません。
とはいえ、不安な気持ちを「気にしすぎ」の一言で片付けてしまうのも良くありません。
気になることがあれば、次に紹介するようなポイントも参考にしながら、専門家に相談することをおすすめします。
【専門的な視点】言葉には「わかる力」と「話す力」の2種類がある
言語聴覚士の評価では、言葉の力を「受容言語」と「表出言語」という2つに分けて考えます。
- 受容言語:相手の言葉を理解する力(「ちょうだいって言われたら渡せる」など)
- 表出言語:自分の気持ちや意思を、言葉として発信する力
保護者が不安に感じやすいのは、「話さない」という表出言語の部分ですが
実はこの2つは同時に育つわけではなく
受容言語が先に育ち、その土台の上に表出言語が育っていくというのが一般的な発達の流れです。
つまり、「まだ話さないけど、指示はよく理解している」という状態は
決して停滞しているわけではなく、土台がしっかり育っている途中である可能性が高いということです。
逆に、指示の理解自体が難しい様子がある場合は、表出言語だけでなく、受容言語の育ちにも目を向けた関わりが必要になります。
家庭で様子を見るときは、「話せるかどうか」だけでなく
「簡単な指示が伝わっているか」
「絵本を読んだときに、指さしで応じられるか」といった
理解面の育ちにも注目してみてください。
【専門的な視点】言葉より前に育つ、「前言語期」のコミュニケーション力
言語聴覚士の支援では、言葉そのものよりも先に
言葉の土台となるコミュニケーション力に注目することが多くあります。
代表的なものが『共同注意』です。
共同注意とは、大人と子どもが、同じものを一緒に見て、気持ちを共有する力のことです。
例えば、子どもが指をさした方向を大人が一緒に見て「あ、わんわんだね」と声をかける
というやり取りは、単なる言葉の練習ではなく、この共同注意の力を育てる大切な瞬間でもあります。
言葉がまだ少ない段階でも
- 大人と目が合いやすいか
- 何かを見せて「これ見て」と伝えようとする様子があるか
- 大人の真似をして、身振りや表情を使おうとするか
といった、言葉以外のコミュニケーションの育ちが見られていれば
それは言葉の土台がしっかり育っているサインとして、専門家からも前向きに評価されるポイントです。
相談の目安になる、いくつかのサイン
以下のような様子が重なって見られる場合は、一度、乳幼児健診や発達相談の窓口で相談してみることをおすすめします。
- 1歳半を過ぎても、意味のある単語がほとんど出ない
- 2歳を過ぎても、二語文(「わんわん きた」など)が出ない
- 名前を呼んでも、あまり反応がない
- 指差しで気持ちを伝える様子が少ない
- 大人の真似をする様子があまり見られない
これらに当てはまるからといって、必ず何か問題があるというわけではありません。
あくまで、相談を検討する一つの目安として捉えてください。
家庭でできる、言葉を育む関わり方
① 子どもの発した音や行動に、すぐ言葉で応える
子どもが「あ!」と指をさしたら、「あ、わんわんだね」というように
その場ですぐに言葉を返してあげてください。
子どもの興味や発信に、大人がタイミングよく言葉で応えることが、言葉の育ちの土台になります。
言語聴覚士の支援では、この関わりを「パラレルトーク(実況中継)」と呼ぶことがあります。
子どもが今まさに注目しているもの・行っている行動に合わせて言葉を添えることで
「この行動・このモノには、こういう言葉が対応するんだ」という結びつきを、無理なく自然に学んでいけます。
子どもの興味が別の場所へ移ったのに、大人が違う話題の言葉をかけ続けても、なかなか結びつきません。
「今、子どもが見ているもの」に言葉を合わせることが、このテクニックの一番のポイントです。
② 短く、はっきりした言葉で話しかける
「今日は公園に行って、そのあとお買い物して、それから帰ろうね」という長い文よりも
「公園、行こうね」というように、短くシンプルな言葉で話しかける方が、理解しやすいことが多いです。
目安としては、「その子が今話している言葉の長さより、少しだけ長い文」で話しかけるのがコツです。
単語だけを話す段階の子には二語文で、二語文を話し始めた子には三語文で
というように、今の力より半歩先のレベルを意識すると、無理なく次の段階への橋渡しになります。
③ 「言い直させる」より「正しい形で返す」
子どもが「ワンワン、いた」と間違った言い方をしたときに
「ワンワンじゃなくて、犬でしょ」と訂正するより、「そうだね、ワンワンいたね」と
正しい表現に言い換えて返してあげる方が、プレッシャーなく自然に言葉を吸収しやすくなります。
これは『リキャスト』と呼ばれる関わり方で
間違いを指摘されるプレッシャーを与えずに、正しい言い方をさりげなく聞かせることができます。
訂正されると、子どもは「話すこと自体」に苦手意識を持ってしまうことがあるため
この『さりげなく返す』という姿勢が大切にされています。
④ 絵本の読み聞かせを、対話を交えながら行う
一方的に読み聞かせるだけでなく、「これ何かな?」「ワンワンいるね」というように
子どもとやり取りをしながら読むと、言葉のキャッチボールの練習になります。
この読み方は「対話型読み聞かせ」と呼ばれ
一方向的な読み聞かせに比べて語彙の育ちを促しやすいとされています。
ページをめくるスピードを子どものペースに合わせ
子どもが指をさしたものについて言葉を添えてあげることも、効果的な関わり方の一つです。
⑤ 焦らず「気持ちを言葉にする手助け」をする
言いたいことがうまく言葉にできず、癇癪を起こしてしまう子には、「〇〇したかったんだね」というように
大人が気持ちを代弁してあげることも効果的です。
「気持ちは言葉にできるものなんだ」という体験を積み重ねることが
言葉の発達を支える土台になります。
なお、子どもが大人の言葉をそのまま繰り返す「オウム返し(エコラリア)」が見られることがありますが
これは意味のない行動ではなく、言葉を学ぶ過程で多くの子に見られる自然な現象です。
繰り返しながら、言葉と場面の結びつきを少しずつ学んでいる途中の姿として捉え
頻度や状況が気になる場合は、専門家に相談の中で伝えてみるとよいでしょう。
「話す」より「伝わる」を大切にする
言葉の発達がゆっくりな子への関わりで大切なのは
「早くたくさん話せるようにすること」よりも
「気持ちが伝わる、伝えられる経験を積み重ねること」です。
言葉以外にも、指差し、身振り、表情など、様々な方法で気持ちが伝わった経験は
その後の言葉の発達にとっても大切な土台になります。
専門家に相談することのメリット
言語聴覚士(ST)や、児童発達支援の専門家に相談することで
その子に合った具体的な関わり方のアドバイスをもらえます。
「家庭だけで頑張らなきゃ」と思わず、専門家の力を借りながら進めることをおすすめします。
早期から専門的な関わりを受けることで、言葉だけでなく、コミュニケーション全体の土台がより育ちやすくなります。
まとめ
- 言葉の発達には、もともと大きな個人差がある
- 気になるサインがあれば、乳幼児健診や発達相談で早めに相談する
- 家庭では、子どもの発信にすぐ応える、短い言葉で話す、正しい形で言い換えて返すなどの工夫が有効
- 「話す」より「伝わる経験」を積み重ねることが、言葉の発達を支える土台になる
言葉の発達は、その子なりのペースで進んでいくものです。周りと比べすぎず、専門家の力も借りながら、その子のペースに寄り添っていきましょう。